調理師・ライター。つくること・食べることが大好きで調理師免許を取得。医療福祉施設での勤務経験を生かして、日ごろの衛生管理やおいしいご飯のレシピについて、お届けします。オムライスとモンブランが大好きです!
たび重なる自然災害やコロナ禍の自粛要請などで、「食料備蓄」への関心が高まっている昨今。すでに、家庭での食料備蓄に取り組んでいるという方もたくさんいらっしゃるかと思います。
でも、その一方で、
「何日分の食料を用意すればいいの?」
「どんな食品を備蓄しておけばよいかわからない」
など、さまざまな疑問や悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか?
万が一の時に慌てなくて済むように、しっかりと備蓄方法や内容について見直しておきたいですね。
この記事では、初めての方でも取り組みやすい、日常生活のなかで食料を備蓄する「ローリングストック」という備蓄方法についてご紹介します。
「何をどれくらい備蓄すればよいか」が簡単にわかるので、ぜひ参考にしてください!
ローリングストックとは?
「ローリングストック」とは、普段食べている食品を多めに買い、日常生活のなかで消費しつつ一定量を確保しておくという備蓄方法です。
「備蓄→消費→買い足し」のサイクルを回す(ローリングする)ことから、この名前がつけられました。
今や非常食(保存食・備蓄食品・防災食)とよばれる食品には、あらゆるタイプの商品が販売されていますが、その中でも「長期保存に特化した商品」は、
- 値段がやや高い
- 日常的に食べる食品ではない
といった特徴から、十分な量の備蓄や管理をしづらいというデメリットがあります。
「ローリングストック」は備蓄量や管理面のデメリットを解消し、日常生活の一環で備蓄・管理がおこなえることが特徴です。
では、「ローリングストック」には具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?
ローリングストックのメリット3つ
ローリングストックのメリットは、次の3つです。それぞれについてもう少し詳しくお話します。
【メリット1】食べ慣れている食品を非常時に食べられる
ローリングストックは、日頃から食べているものを多めに用意する備蓄方法。
そのため、非常時でも日常生活に近い食事を食べられます。
非常時に慣れないものを食べ続けていると、体調を崩したり心が落ち着かなくなったりするものです。
非常時こそ普段と変わらないものを食べると、それだけで精神的に安心できますよ。
【メリット2】置き場所に困らない
ローリングストックは収納場所に少し余裕を持たせ、多めに買った食品を収納すれば、それだけで備蓄も兼ねられます。
「長期保存食品」は便利で心強い備蓄ですが、日常生活では使う頻度が低いため、専用の収納場所が必要です。
食品収納=備蓄収納にできるローリングストックなら、収納スペースの少ない家庭でも気軽に取り組めますよ。
【メリット3】手に入りやすい
日頃食べている食品を備蓄するローリングストックなら、スーパーの買い物ついでに備蓄食料を購入できます。
一方で、アルファ化米1や長期保存できるパンなどは優秀な非常食ではあるのですが、販売場所が限られています。
普段のお買い物では調達が難しいため、在庫を入れ替えるタイミングによってはすぐに補充できないという事態が起こり得ます。
ローリングストックは思い立ったときに調達しやすいので、常に在庫を保っておきやすい備蓄方法なんです。
ローリングストックの実例【一人暮らし・4人家族】
日常生活に取り入れやすい備蓄方法「ローリングストック」。
しかしいざ備蓄しようと思っても、「どれくらいの食料を確保しておけばよいのだろう?」と悩んでしまいませんか?
平成31年に農林水産省が発表した「災害時に備えた食品ストックガイド」によると、
- 災害発生から3日間は人命救助優先、災害支援物資も到着に3日ほどかかる
- ライフライン・物流機能の復旧までにおよそ1週間かかる
以上の理由から、最低3日〜1週間×人数分の備蓄が推奨されています。
まずは「3日分の食料」を目安にローリングストックをおこない、徐々に備蓄量を増やしていくのがおすすめです。
続いて、世帯人数ごとの具体的な備蓄食料品リストを確認していきましょう。
【一人暮らし】3日分の備蓄食料品リストの例
一人暮らし世帯で必要となる3日分の備蓄食料品をリストアップしました。
水分は生命の維持に必須なので、水を最低でも1日3L×3日分は確保しておきましょう。
備蓄しておくのはミネラルウォーターが無難ですが、一部お茶やジュースに置き換えるのもおすすめです。
食料品のラインアップは、中食(調理済みの食品を購入し自宅などで食べること)や外食が多く、普段自炊をあまりしない方を想定しています。
日頃から自炊する習慣がある方は、パックご飯を無洗米に置き換えたり、パスタソースを調味料や乾物・缶詰で代用してもよいでしょう。
【4人家族(大人2人・乳幼児2人)】3日分の備蓄食料品リスト
4人家族(大人2人・乳幼児2人)の場合に必要となる、3日分の備蓄食料品をリストアップしました。
簡単な調理ができる環境を想定しているため、乾物や生米、調味料をリストに加えています。
乳幼児がいるご家庭の場合、月齢にあわせた離乳食やミルクは必ず用意しておきましょう。栄養失調からの免疫力低下に注意してください。
月齢が低いお子さんがいる場合、備蓄しておく食品は万が一を考えて「アレルギー対応」のものがおすすめです。
また、非常時は精神的に不安になるもの。お子さんが大好きなお菓子や飲み物を用意しておくと、リラックスしやすくなりますよ。
ローリングストックにおすすめの商品例
ここからはどんな食品をローリングストックしておくとよいか、実際の商品を例にご紹介します。
栄養素ごとに分けて紹介しているので、満遍なく用意できるよう意識してみましょう。
飲み物(水分)|ミネラルウォーター、長期保存水
非常時に欠かせない飲み物は、十分な量を用意しておきましょう。
我が家では普段浄水器に通した水道水を飲んでいるので、非常時用には長期保存可能な水を別で用意しています。
ペットを飼っている場合
ミネラル分の多い水(硬水)を犬や猫に飲ませると、尿管系疾患の発症および症状悪化の可能性があります。
備蓄水は人間用と別にペット用の軟水を用意する、もしくはすべて軟水を用意しておくと安心です。
主食(炭水化物)|レトルトご飯、パスタ、アルファ化米
主食となる炭水化物類はストックがしやすく賞味期限が比較的長いので、多めに備蓄しておきましょう。
レトルトご飯は日常生活でご飯を炊き忘れたときにも活躍する備蓄です。
乾麺の備蓄はパスタがおすすめ。水漬けパスタにすれば調理時間を短縮できますし、うどんやそばよりも少ないお湯で調理可能です。
また、麺に塩分が含まれていないので「ワンポットパスタ」に向いており、お湯が無駄になりませんよ。
我が家では、一部「アルファ化米」も備蓄しています。
アルファ化米は、炊飯器などでの調理が不要で、水やお湯さえあれば食べることができます。
ガスや電気が一切使えない、ガスボンベもないときの命綱的な食料です。
いま注目!「オートミール」も備蓄におすすめ
主食の備蓄はお米や麺類が一般的ですが、最近話題の「オートミール」も備蓄にぴったり。
栄養成分が優秀で、精白米と比較して植物性タンパク質が約2倍、食物繊維は約20倍の量が含まれています。
その他ビタミンやミネラルも豊富に含まれており、栄養が不足しがちな非常時に最適の主食です。
常温で長期保存でき、乾燥していて軽いのでストックも容易にできます。雑炊風・リゾット風・ポリッジ(オートミールでつくるお粥)など食べ方も豊富で、赤ちゃんの離乳食にも使用可能です。
普段の生活にオートミールを取り入れて、ローリングストックに仲間入りさせてみてください。
主菜(たんぱく質・脂質)
非常時の主菜は、やはり長期保存できる缶詰が定番。
さんまやイワシ、サバなどの味付け缶詰は単体でおかずになるので、ぜひストックしておきたい商品です。
また魚ばかりで飽きてしまいそうな場合は、焼鳥缶などお肉の缶詰も用意しておきましょう。
もちろんレトルトのカレーや丼もおすすめです。
我が家では、普段は食べない少しリッチな缶詰を買ってストックしています。
備蓄にちょっとした楽しみを忍ばせると、日々ローリングストックを気にかけるきっかけになりますよ。
副菜(ビタミン・ミネラル)
非常時は生野菜の調理が難しいので、手軽に飲める野菜ジュースを買い置きしておきましょう。
パックの野菜ジュースもあれば、写真のように長期保存できる缶タイプの野菜ジュースもあります。
意外におすすめな食品が、常温で保存できるレトルトパウチ・缶詰の豆や野菜。
調理不要ですぐに食べられ、賞味期限も1年以上あります。味の濃い缶詰類と一緒に食べるとちょうどよい塩加減になり、かさ増しできるのでおすすめです。
おやつ(嗜好品)
非常時こそおやつがあると、ほっと安らぐきっかけになります。個包装のようかんやビスケット、せんべいやスナック菓子がおすすめです。
寒い時期であればチョコレートもおすすめですが、夏場は溶けてしまうので注意しましょう。
※写真の「チョコえいようかん」は保存期間3年ですが、2019年のリニューアルで5年保存が可能になっています。
私のおすすめは井村屋の「えいようかん」。
賞味期限が5年以上あり、個包装かつ簡単に開けられるパッケージなので、手を汚さず手軽に食べられます。
実際に何度か試食していますが、煉(ねり)・チョコどちらも普通におやつとして食べたいほどおいしかったです。
しかも「アレルゲンフリー」なので、アレルギーのある方も安心して食べられます。
通販はもちろん、最近ではスーパーやドラッグストアなどでも販売されているので、ぜひ購入してみてください。
備蓄食品選びのチェックリスト|5つのポイントを確認!
上記におすすめした食品以外にも、各ご家庭でローリングストックの候補に挙がる食品はいろいろありますよね。
しかしその食品がローリングストックに向いているのかどうか、判断が難しくありませんか?
そこで、備蓄食品選びの参考になるチェックリストを作成しました!
各ポイントを少し詳しく解説します。
【ポイント1】「調理不要」もしくは「簡単な調理のみ」で食べられる
災害時にはライフライン(ガス・電気・水道)が使えず、飲み水にも限りがある状況が予想されます。
まずは「調理が必要ない」もしくは「水やお湯を入れるなど簡単な調理だけで食べられる」かどうかで判断しましょう。
【ポイント2】普段から食べ慣れている・好みの味である
災害時は不安やストレスで心が落ち込みがち。
無理に高栄養の慣れない食事をとるよりも、多少栄養が偏ってもおいしい食事の方が安心でき、ストレスも緩和されます。
「非常時には栄養が不足しがちだから」と、慣れない飲み物や食べ物を備蓄するのはあまりおすすめできません。
【ポイント3】栄養の偏りがないか(在庫の備蓄食料もチェックして)
「ローリングストックにおすすめの商品例」にあるように、備蓄は各栄養素の食品をまんべんなくストックしましょう。
基本的に安心できる味・おいしい味の備蓄食品がおすすめですが、かといって栄養も無視できません。
おいしいからといってインスタント麺ばかり選んでしまうと、塩分・脂質過多になってしまうので注意が必要です。
【ポイント4】賞味期限が最低6か月以上ある
賞味期限が短いと商品の購入サイクルも短くなり、出費がかさんでしまいます。
賞味期限は短くて6か月、できれば1年以上あるものがおすすめです。期限内に消費しながら、都度買い足していくサイクルを作りましょう。
【ポイント5】十分な量を確保できる値段である
備蓄の必要量は世帯人数が多いほど増えるため、その分購入費用も多く必要になってしまいます。
十分な備蓄量の確保を優先するために、まずは家計の負担にならない価格の商品を選んで購入しましょう。
実際にローリングストックをしてみよう!
ローリングストックの量とおすすめの食品を理解すれば、あとは実際に備蓄するだけです。
具体的な手順と失敗例・解決法は下記の記事で詳しく紹介しています。当記事とあわせて、ぜひ参考にしてください。
非常時以外も役に立つ!ローリングストックのすすめ
▲ローリングストックを実践されている整理収納アドバイザー・藤野ことさんの備蓄食品の収納事例
ローリングストックの主な目的は「非常時のための備蓄」ですが、役に立つ場面は他にもあります。
例えば…
- 一人暮らしで体調不良になり、外食や食事の用意が難しい
- 家族の緊急事態(ケガ・病気など)で食事を用意する余裕がない
- 冷蔵庫に食材がないけれど、買い出しに行く時間がない
ローリングストックは、自然災害などの大きなアクシデントに遭遇した際の備えです。
しかし一方で、上記のような日常で起こる小さなアクシデントへの備えにもなります。
「いざ」というときに役立つローリングストック、まず小さなところから始めてみませんか?
いつもより少し多めに買うことからはじめよう
“食料備蓄”だと少し身構えてしまいますが、“いつもより少し多めに買い物する” と考えれば、少しハードルが下がりませんか?
ローリングストックはいつもの買い物の延長線上でおこなえる、身近な備蓄方法です。
- 世帯人数ごとの備蓄量の例
- ローリングストックにおすすめの商品
- 備蓄食品選びのポイント
この3つを理解しておけば、あとは買い物のときに多めに購入するだけ。
「何も用意してない」状態よりも「少しでも備蓄している」と思えれば、精神的にも余裕ができます。
ぜひ日常生活で始められるところから、ローリングストックを試してみてくださいね。
「防災グッズセレクション」では非常時に役立つアイテムを多数ご紹介しています。こちらもぜひご覧ください。
参考資料
農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド(PDF)」検索日2021/5/12