北海道の庭で、野菜と共にハーブ・野草・山菜を育てる菜園家。また、それらの食材の楽しみ方・調理方法をプロとして、Yahoo!などの様々なメディアで発信している。Instagram・ブログ『料理+菜園づくり 食育インストラクターracssの日々の暮らし』で、その様子を公開中。
ローストビーフといえば特別な日の「ごちそう」料理というイメージがありますが、冷たくても美味しく食べられるという点から、普段の作り置き料理にも向いています。
ローストビーフは外側はこんがりと香ばしく、中はきれいな赤色で柔らかい仕上がりが理想的ですよね。本来はオーブンでじっくりと焼き上げる料理ですが、オーブンがなくても美味しく作ることができます。
この記事では、ご家庭で作りやすいローストビーフの調理方法を3つ紹介します。
・フライパン
・魚焼きグリル
・湯せん
それぞれにメリットとデメリットがありますので、ご自分に合った方法を見つけてみてくださいね。
調理に失敗したときのリカバリー方法や、ローストビーフに合うソースの作り方、ローストビーフを使ったアレンジレシピも一緒にご紹介します。
ローストビーフ作りにおすすめな肉の部位は?
ローストビーフを作るときには、どんな部位の肉を用意するとよいのでしょうか。
牛肉にはたくさんの部位があって迷ってしまいますが、ローストビーフに向いているのはロース肉ともも肉です。
●ロース肉
「ロース」の語源は「ロースト」だとされていて、ステーキなど焼く料理に最適な部位です。
ロースの中には肩ロース、リブロース、サーロインなどの種類があります。
適度に脂があったほうがいいという人におすすめ。
●もも肉
もも肉には「内もも」と「外もも」がありますが、きめが細かくローストビーフに向いているのは「内もも」です。
脂がほとんどないのであっさりしていますが、そのぶん脂が白く固まらないので、冷たいまま食べることの多いローストビーフにはぴったり。
お値段も比較的手ごろなのが魅力です。
ローストビーフを作りやすい分量は?
厚さ8cmから15cmくらいの固まり肉で、500g前後が作りやすい分量です。
厚い肉の方が、加熱しすぎて固くなるという失敗を避けやすいのでおすすめ。
500gだと、4~5切れずつ(1人当たり125g)と考えて4人分ほどになります。
たくさん食べたいとき、人数が多いときはもう少し大きい固まりでもいいですね。
ローストビーフを作る時の注意点
ローストビーフを作るときに知っておきたい注意点をまとめてみました。
【1】肉は必ず常温に戻す
肉は必ず常温(20度前後)に戻してから調理する必要があります。
冷たいまま加熱をすると、タンパク質が急激に凝固し水分が全部出てしまうため、固くパサついた仕上がりになってしまうからです。
冷蔵庫から出した直後の肉は3度くらい、チルド室に入れていたなら0度前後です。
ローストビーフ用の肉は厚切りのため、中心部まで20度にするには1時間は見ておいた方がいいでしょう。
肉を常温に戻すときのコツ
肉が入っていた発泡スチロールのトレイを外します。ラップやビニール袋を密着させて空気を遮断し、室温に置いておきます。
熱伝導率の高い金属トレイやステンレスの作業台の上に置いておくと、やや早めに適温にすることができます。
【2】調理には時間がかかる
ローストビーフを作るには時間がかかります。肉を常温に戻すのもそうですが、調理を開始してからカットできる状態になるまで最低3時間はかかります。
これは、肉汁があふれ出てしまわないようにしっかり冷ましてから切らなくてはいけないからです。
美味しいローストビーフ作りには時間がかかることを考えると、余裕を見て食べたい日の前日から作るほうがいいかもしれません。
フライパンだけで作るローストビーフのレシピ
フライパンでしっかり焼き目をつけ、その後余熱を利用して中まで火を通すことで、フライパンだけで簡単にローストビーフを作ることができます。
どうしても周囲に油がたくさん跳ねてしまうのが困りますが、大きなかたまり肉も手軽に焼けるのがメリットです。
フライパンだけで作るローストビーフの材料
- 牛肉(8から10cmほどの厚みで500g以上)
- 塩コショウ大さじ1
- ニンニクの薄切り2かけ分
- 油大さじ1
では、作り方を解説していきましょう。
1.肉の下ごしらえ
肉は常温に戻し、塩コショウをなじませておきます。
2.ニンニクの香りを油に移す
フライパンに大さじ1の油を入れ、ニンニクを焼きます。焦げないよう中火で加熱し、ニンニクの香りを油に移します。
ニンニクはきつね色になったら取り出します。これはあとでトッピングに使ってもいいでしょう。
3.肉を焼く
肉をフライパンで焼きます。強火ですべての面を2分ずつ焼きます。
トングを使い、小さい面もしっかり焦げ目をつけるようにします。これは、肉の表面を焼き固めて肉汁を閉じ込める効果があります。
4.蒸し焼きにする
火を中火にし、フライパンにふたをして5分間蒸し焼きにします。
ふたに肉が当たる場合は、このようにアルミホイルでフライパンを覆います。
5.肉をアルミホイルで包む
火を止め、肉をアルミホイルの上に取り出します。
アルミホイルで包んでからさらにアルミホイルをかぶせて二重に包みます。
6.余熱で中まで火を通す
さらにビニール袋に入れ、ふきんなど布で包みます。
これは保温して余熱で中まで火を通すためです。
このまま30分以上置きます。
7.火の通り具合を確認する
30分以上たったら一度開けて状態を確認します。
軽く押してみて、しっかりした弾力があるかどうかを見ます。
柔らかすぎる場合は中が生ですので、再加熱する必要があります(再加熱の方法は後ほど解説します)。
肉汁が出ていますので、ソースの材料としてとっておきます。肉は軽く包みなおして、完全に冷まします。この間にソースの用意をするといいでしょう(ソースの作り方は後ほど紹介します)。
8.切り分ける
肉が完全に冷めてから切り分けます。ほのかに温かいくらいがベストですが、熱いうちに切ると肉汁が流れ出てしまうので注意してください。
すっかり冷えて脂が白くなっているようなら、お皿に盛り付けてから電子レンジでほんの5秒から10秒ほど温めるのをおすすめします。
魚焼きグリルで作るローストビーフのレシピ
家庭の魚焼きグリルで、ローストビーフを作る方法があります。
魚焼きグリルはオーブンと似た構造で加熱ができるので、ローストビーフにはぴったりなんです。
家庭用コンロに備え付けの魚焼きグリル内で表面を焼き固めた後、余熱で中まで火を通す手順で作ります。
魚焼きグリルの庫内の高さに合わせて、肉の厚みを薄くしなくてはなりませんが、その分早く仕上がります。
肉を室温に戻す時間は含みませんが、調理開始から1時間半あればカットできる状態になります。
時間をかけずにローストビーフを作りたい時におすすめですので、ぜひ試してみてくださいね。
魚焼きグリルで作るローストビーフの材料
- 牛肉(厚さが4cm以下)
- 塩コショウ
1.肉の下ごしらえ
この写真では厚さ約3.5cm、重さ300gの肉を使っています。
肉は室温に戻し、塩コショウを振っておきます。
2.魚焼きグリルで両面を焼く
両面焼きグリルの場合は、2分間予熱した魚焼きグリルに入れ、強火で10分間焼きます。(片面焼きグリルの場合は、片面7分ずつを目安に裏返して合計15分程度焼いてください。)
3.温度を確認する
途中で中心温度を確認すると確実です。
肉の中心温度が55度になったときに火を止めます。
今回は300gと小さい肉なので早く焼けるかと思いましたが、中心温度が55度になるにはちょうど10分かかりました。
大きい肉でも厚みが4cm以下なら、同じ時間でちょうどよい状態になるはずです。
4.アルミホイルで包む
アルミホイルの上に取り出し、二重にアルミホイルに包んでから魚焼きグリルの庫内に戻します。
これは、温かさの残る庫内で余熱調理をするためです。
5.包みを開け、肉を冷ます
30分たったら包みを開けます。
肉汁が少し出ているので、ソース用に使います。
肉は魚焼きグリルから取り出し、室内でゆっくり完全に冷まします。
6.ソースの作り方
冷ましている間にソースを作ります。
ソースの作り方はこの後紹介している「ローストビーフに合うソースの作り方」を参照してください。
7.切り分ける
肉が冷めたら切り分けて盛り付けます。
わさびやニンニクすりおろしを添えて、ソースと合わせてどうぞ。
●グリルパンがあると便利
魚焼きグリルでローストビーフを作るとき、網の上にそのままお肉を置いても構いませんが、このようなグリル用のフライパンがあると便利です。
焼いているときに肉から出る肉汁や脂を無駄なくソースに使えるからです。
アルミ皿やホーローのお皿などでも代用できます。
いずれの場合も、肉が張り付いてしまうことを防ぐために、薄く油を塗ってから肉をのせるようにします。
フライパンは本体が温まるまで時間がかかるので、肉をのせる前にフライパンのみ魚焼きグリルに入れて一緒に予熱しておくか、コンロで下側を温めておくといいでしょう。
湯せんで作るローストビーフのレシピ
湯せんで作るローストビーフは、温度管理がしやすく失敗が少ない調理法です。
お湯のなかでじんわりと火を通し、最後に表面を焼きつけます。
湯せんでローストビーフを作るには、保温力ある大きめの厚手の鍋が必要です。
低温調理と同じ原理なので最も時間がかかりますが、仕上がりはしっとり!
400g前後のお肉を複数同時に調理するのにも向いています。
1回に食べきれる分に分けて調理できるので、作り置きにはおすすめです。
湯せんで作る場合の材料・必要なもの
- 牛肉(この写真では約320gの肉を2つ用意しました)
- 塩コショウ
- ローリエ
- オリーブオイル
- 油少々(最後に焼くときの敷き油)
- 耐熱性のあるビニール袋
- 厚手の鍋
- 水
- 鍋底に敷くもの(シリコンマットや皿など)
1.肉の下ごしらえ
ビニール袋に塩コショウをすりこんだ肉を入れ、ニンニク、ローリエ、オリーブオイルを入れます。
オイルを全体になじませたら、空気を抜くようにして密閉します。さらに袋を二重にします(袋については下記で詳しく解説します)。
2.袋に入れて湯せんする
鍋に水を入れ、肉を入れた袋を入れます。
鍋底に袋が密着して破損するのを防ぐため、シリコン製の鍋敷きを入れています。お皿や脚のついた金属ザル・網でも代用できます。
3.強火で加熱後、蓋をして余熱調理する
強火で加熱し、お湯が沸騰直前(85度から90度)に火を止めます。
火を消したらふたをしてそのまま余熱で調理します。
火を消してから約3時間が余熱調理の目安になります。
ゆっくりお湯の温度は下がっていきますが、60度以上が保たれていれば肉には火が通っていきます。
4.温度を測る
室温や鍋の保温性によっては温度が早く下がることがあるので、途中で一度確認すると安心です。
1時間たったところで鍋のお湯の温度を計ります。
60度以上あればOKです。そのまま余熱調理を続けます。
《ポイント》
お湯の温度が50度を切っていたら、冷めすぎなので再加熱します。
50度以下では雑菌が繁殖しやすい状態なので注意が必要です。
そのまま火にかけ、お湯の温度が70度になったら火を消して保温します(固くなるのでそれ以上熱くならないように注意してください)。
冷めにくくするためには、新聞紙やタオルで鍋ごと包むのもおすすめです。
あとは徐々に冷めていくので、そのまま次の日まで置いても構いません。
5.袋から出し、水分を拭き取る
余熱調理を終えて袋から取り出すと、肉汁が出ています。
この肉汁はソースに使うこともできますが、濁りが強いようならあまり美味しくできないので捨てましょう。
表面の肉の色は茶色くなっています。しっかり水分をふき取ります。
6.表面を焼きつける
油をひいたフライパンで表面を焼きつけます。1面当たり30秒でOKです。
全部の面を焼きます。表面を焼くことで香ばしさが加わり、ローストビーフらしくなります。
7.切り分ける
表面が冷めたら切り分けます。
中はきれいなピンク色です。しっとりと出来上がりました。
袋に一緒にいれてあったニンニクとローリエの香りもしっかりしみ込んでいます。
湯せん調理で作るローストビーフはとても柔らかいので、少し厚めに切って歯ごたえを楽しむのにも向いています。
湯せんでローストビーフを作る時に使うビニール袋は、耐熱性の高い「高密度ポリエチレン製」で厚さが0.01mm以上のものを使用します。
これは100円ショップにあったものですが、「高密度ポリエチレン」の表示があり、0.01mmの厚さですので適しています。
今回は破れ防止のために二重にして使用していますが、湯せん専用のもっと厚手のビニールも市販されていますので、そちらを使ってもよいでしょう。
生焼けや焼きすぎで失敗した場合のリカバリー方法
ローストビーフは手順通り作っても、肉の厚さや室温などの影響で思ったような仕上がりにならないことがあります。
でも、リカバリー方法を覚えておけば大丈夫!以下で詳しく解説します。
中が生!?生焼けの場合は「再加熱」
手順通りの時間がたって、試しに切ってみたら、中がまだ生!
これではレアすぎるからもう少し火を入れたいというときには、包みなおして追加で加熱します。
このとき、肉を触ってみて弾力を確認します。中がまだ生に近いときは、柔らかく「ブヨブヨ」としているはず。生のお肉の弾力と同じです。
これがもっとしっかりした弾力に変わるまで再加熱します。
フライパンでは焼きすぎてしまうことがあるので、小さめの鍋で蒸すようにして再加熱するのがおすすめ。
小さめのお鍋にカップ1の水を沸かします。
この写真では直径18センチの片手鍋を使っています。
肉をアルミホイルとビニール袋で包みなおし、さらにクッキングシートで覆ってから鍋に入れます。
これはお湯と肉が直接当たらないようにして、ゆっくり加熱するためです。
フタをして5分蒸します。
一度火を止め、肉の固さを確かめます。さきほどより固く感じればOK。
まだ「ブヨブヨ」と感じるならさらに蒸します。
中まで火が通ったかを確認するには、温度計で肉の中心部の温度を計るのが確実です。
肉の中心部が55度を過ぎたら、火からおろします。
鍋から出して冷まします。
完全に冷めたらできあがり。
火が通りすぎて固いときは「切り方を工夫」
では反対に、出来上がってみたら火が通りすぎていると感じた場合はどうしたらよいでしょうか。
牛肉に火が通りすぎると、固くなってしまいます。
それをカバーするには、ごく薄くスライスすると良いでしょう。
厚さ2mmくらいに削ぐつもりで薄くカットし、ソースとなじませながらいただきます。
こうすると固さも気にならず食べやすいですし、お肉のうまみが味わえます。
「生っぽいのが嫌」という人には、むしろこちらのほうが好評かもしれませんね。
ローストビーフの失敗を防ぐ「クッキング温度計」
ローストビーフを作るときには、途中で何度も試し切りをするわけにはいきません。
肉汁が流れ出してしまい、パサつく原因になります。
そこで、クッキング用の温度計を使うと失敗しないのでおすすめです!
先がとがっているのでそのまま刺せますが、刺しにくいときは金串や竹串で肉に穴を開けたところへ差し込みます。
肉の中心部が55度になった時点で加熱をやめるのがベストタイミング。
(火からおろしてからもう少し温度が上がり、最適な状態になります。)
牛肉は55度から65度の間で火を通すと、水分を閉じ込めたまま柔らかく仕上がります。
これ以上低いと生のままなので保温中に雑菌が繁殖してしまいますし、70度を超えると肉の収縮が強くなるため肉汁がぎゅっと絞り出されてしまいます。
慣れてくると手で触れた弾力で火の通り具合が大体わかるようになりますが、温度計があれば熱い思いをして触る必要もありません。
この温度計は、「中心温度計」と呼ばれるタイプで、食材に差し込んで内部の温度を計るのに適しています。
-50度から240度まで計ることができ、水濡れにも強い作りです。
わたしはこの温度計をローストビーフのほか、やかんに挿してコーヒーに適したお湯の温度を計ったり、揚げ油の温度を計ったりするのに使っています。
料理用の中心温度計は「湯せん調理」「低温調理」をする際にも使えますので、あると便利です。
ローストビーフに合うソースの作り方
ローストビーフを作っていると、肉に火が通る段階でいくらか肉汁が出てきます。
この肉汁を無駄なくソースに利用します。
ここではお醤油ベースの簡単なソースの作り方を紹介しますね。
ワサビやからしとも合う、日本人好みの味です。
お醤油ベースのローストビーフ用ソースの材料
- 赤ワイン 100cc
- 醤油 100cc
- みりん 100cc
- 肉から出た肉汁
肉を焼いたフライパンにソースの材料を入れ、中火にかけます。
軽くかき混ぜながら静かに煮詰め、3分の1ほどになったら出来上がりです。
ワインのアルコール分は完全に飛び、ワインの酸味が旨みに変わってコクのあるソースになります。
お好みでケチャップ少々やとんかつソース少々を加えるなど、アレンジしてもいいでしょう。
ローストビーフの作り置き料理アイデア
ローストビーフは特別な時の料理にピッタリですが、普段の作り置き料理としてもおすすめです。
固まりで一度にたくさん作れますから、少しずつスライスしておかずの1品に使えます。
パンにもご飯にも合いますし、レタスサラダに2 ~ 3 切れ添える、ポテトサラダを包むなど、アレンジはたくさん。
いくつか紹介しますね。
サンドイッチ
辛子とマヨネーズ、ピクルス等を一緒に挟みます。
ローストビーフ丼
ご飯の上にのせ、わさび醤油でいただきます。
●ローストビーフの保存方法
ローストビーフは、冷蔵庫に保存して4日程度はそのまま美味しく食べられます。冷凍保存なら1ヶ月保ちます。
冷凍したローストビーフは、前日から冷蔵庫に戻してゆっくり解凍してくださいね。
おわりに
オーブンがなくても美味しいローストビーフを作る方法を3つ紹介しました。
「大きな固まりを豪華に作るならフライパンで」
「今日食べるおつまみとしてさっと作るなら魚焼きグリルで」
「作り置きの分も一緒に調理するなら湯せんで」
というように、「ローストビーフをどんな料理に使いたいか」で使い分けしてもいいと思います。
時間のある時にぜひ作ってみてくださいね。